2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

朝が、なにかのはじめみたいに感じたことはない。いや、朝でもなんでも、おれの頭のなかで名前がついているものは、はじめという言葉とは、カンケイないみたいな気がする。『自動巻時計の一日』田中小実昌

祈りは言葉でできている。言葉というものは全てをつくる。言葉はまさしく神で、奇跡を起こす。過去に起こり、全て終わったことについて、僕達が祈り、願い、希望を持つことも、言葉を用いるゆえに可能になる。過去について祈るとき、言葉は物語になる。『好…

大まかにいえば変身の仕方の新しい方法を見つけたいのだ。過去の人たちのやった過程はみんな信じられないし、どうもね。『美術手帳一九六一年八月号』荒川修作

でも僕はあえて過去のことについても祈る。もう既に起こってしまったことについても、こうなってほしいと願う。希望を持つ。『好き好き大好き超愛してる。』舞城王太郎

きみと世界との戦いでは、世界の側に。『カフカノート』高橋悠治

ここで書いていることは、だれも読まないだろう。(中略)それを知りながらここで書いているのは助けを呼ぶためではない、自分で抑えきれなくて、ちょうどいまのようにそのことを強く思い出してしまう時もあるが。『カフカノート』高橋悠治

夢がいくつも流れ去る下で、疲れて希望もなくベッドに横になり『カフカノート』高橋悠治

逃げ場は無数、救いはただ一つ、だが救いの可能性は逃げ場ほど多い。『カフカノート』高橋悠治

夜の恐怖、夜でない恐怖。『カフカノート』高橋悠治

実人生は小説のようであるとき、生きるに値するものだと思うようになっています。『寓話』小島信夫

目標はある、道がない — 道というのは、ためらいだ。『カフカノート』高橋悠治

蛇みたいに歩け。そのほうがよっぽどいい。荒川修作

アイデンティティはひとつの病気である。荒川修作

美しい書物はどれも一種の外国語で書かれている。プルースト

写真にはなんの謎もない。それが写真の唯一の謎だ。金村修

私がもし地球がなくなって、ほかの星に行くことになったとして、そこの住人に『おまえの住んでいた地球というところで今までに行きついた最高の思想は何だ』そうきかれた私はチュウチョなく一冊の本を手渡してこう云うだろう。『それはこれだ。「ドン・キホ…

私のいうことは消すためにしゃべっているのだ。ロラン・バルト

やがて彼は渡し舟で川を渡って、それから山へと登り、生まれた村や、西の方、寒々とした真っ赤な夕映えが細い筋となって光っているあたりを眺めたとき、昔その園や祭司長の中庭で人間生活を導いた真理と美が、連綿として今日までつづいて、それらが絶えず、…

すると喜びが急に胸に込み上げてきたので、彼は息つくためにしばらく立ち止まったくらいだった。過去は、と彼は考えた、次から次へと流れ出る事件のまぎれもない連鎖によって現在と結ばれている、と。そして彼には、自分はたった今その鎖の両端を見たのだ——…

学生はまたもや思いに耽った。ワシリーサがあんなふうに泣き出し、娘があんなふうにどぎまぎしたところを見ると、たったいま自分が話して聞かせた、千九百年むかしにあったことが、現代の−−−この二人の女に、そしてたぶん、この荒涼とした村に、彼自身に、す…

追伸 ぼくは執筆途中の先生に感想を申し上げる気はありませんが、作中のこの作家は、先生の『十字街頭』の主人公がそうしたように、赤子となって往来か神社かは知りませんが、泣くことになると思っています。往来とは千万人読者の新聞紙上のことかもしれませ…

「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」 いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼びもどすかのように門番がどなった。 「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのた…

彼女はそんな負担に堪えられないといった。 「複雑である方が、暮らし易い」 と彼はいい続けていたが、小説家として、小説を書く立場でそういったのかもしれないし、その思いは、今では彼本人にもよく分からないようなことだった。 小島信夫『うるわしき日々…

精神分析が失敗するというのは、これはまったく当たり前のことなんです。ラカン

書く理由のなかで最良のもの、それは男であるということの恥ずかしさではないだろうか。ジル・ドゥルーズ

小説家というものは、実人生の生活においては、あいまいと見える行動しかとらないことがある。それでも小説の中では、意思や目的に近いものをもつことはある。 小島信夫『うるわしき日々』

彼の勇気ある破綻の場所において、彼が不意に「別の」相貌を顕わにするに至るまで。『夜戦と永遠』佐々木中

私ははじめ筆者として書きはじめた。そのうち、私と書くようになった。筆者と私とが混じりあうことのなかに、たしかに私は生甲斐を見出しつつある。『菅野満子の手紙』小島信夫

短かい時のあいだに我に返る。何か幸福というものらしきものが、あそこにある。今、はじめて分ったようにあそこにある。ほんとうはずっと前からああいう光線を見ていたものだった。しかしこのように新しい自然のように、幼児が外界を見るように初々しく発見…