短かい時のあいだに我に返る。何か幸福というものらしきものが、あそこにある。今、はじめて分ったようにあそこにある。ほんとうはずっと前からああいう光線を見ていたものだった。しかしこのように新しい自然のように、幼児が外界を見るように初々しく発見した。発見は、何もトルストイトルストイのえがく人物だけの専売特許ではない。ところが発見はかえって彼の事情を息苦しくさせる。彼は幼児のように発見したけれども、強壮なる二十七歳の男である。『私の作家遍歴』小島信夫