2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

だが、死ぬことは、消滅することではない、存在のもうひとつの領域に入り込むことである。この領域は、生の活動より深く、自然の生成さえもがこれに依存せずには現れてこない。そうした領域が、私たちの生活の到るところで口を開いている。『セザンヌ 画家の…

「水浴」の裸体は、むろん誰の裸体でもない。ここにいるのは、あれこれの〈人物〉ではない。これらの裸体は、マルヌ川の水に浸った少年の裸体を通して、ありうるすべての裸体へと拡がっていった感覚の生命である。『セザンヌ 画家のメチエ』前田英樹

私はね、ここにある自分の静物画をみな私の御者のために、こんなものを欲しがらない御者のために描くのだ。セザンヌ

それは彼の母の姿であり、彼じしんの姿、そして私の姿でもあった。『見張りの男』磯崎憲一郎

およそ言葉というものはすべて場違いでしかないと思われた。『モロイ』ベケット

しかし、薄暗くどっしりとしたものから、軋みをたてる石のようなものから、突然液体のようになるあの感覚はどう言い表したらいいのか。『モロイ』ベケット

それはつまり、私が自分の家から、庭から、いつか追い出されるということだろうか、私の木々も、芝生も、小鳥たちも、一羽一羽と親しく、それぞれの鳴き方、飛び方、私のそばへ寄ってくる仕方、近づくと逃げ去るやり方を持っているあの鳥たちを失うこと、そ…

歩いているというより突撃していた。『モロイ』ベケット

その女の子がわたしで、そのようにして、わたしはあなたの部屋にやってきて、あなたとわたしは姉妹になった。『「ふたつの入り口」が与えられたとせよ』古谷利裕

いろいろな物体は、互いに浸透する…… それらは生きることをやめない、いいですか…… それらは感じられないほど僅かずつ、周囲に互いの親密な反射を拡げていく、私たちが自分たちの眼差しや言葉でそうするように…… セザンヌ

他人が私に言っていることばかりでなく、私が他人に向かって言っていることさえ、理解するのにほねがおれたということも。『モロイ』ベケット

それでも、いつの日か、銅に刻まれたように不動で梢を動かす微風一つない森の混沌を通して、平野の青白くすばやい渦のような妙な光が見えるだろうという希望はけっこう持ち続けていた。『モロイ』ベケット

いつもの癖で両手を顔へあててみると、そして、この動作もいまや、以前とは違ってむりもなかったが、両手に感じられるのは同じ顔とは思えず、顔に感じられるのは同じ両手とは思えなかった。『モロイ』ベケット

楡の林へだよ、と息子は答えた。近所の小公園のことをそう呼んでいた。だが、そこには楡の木など見あたらなかった。だれかがそう確言していた。『モロイ』ベケット

息子の部屋へはいる前に、自分の部屋へはいった。『モロイ』ベケット

私があなたに翻訳してみせようとしているものは、もっと神秘的であり、存在の根そのもの、感覚の感知しがたい源泉と絡みあっているのです。『セザンヌ』J・ガスケ

相手が本当は誰なのか知りもせぬまま不用意に相槌を打ったりしていないか、どうして自分が来てしまったのか分からぬような場所にずるずると惰性だけで留まり続けてはいないか、いつ如何なる場面でもちゃんと一人孤独でいるかどうか、俺は俺自身を見張ってい…

何もせず、ただじっと黙って一人で座っていることによって時間は横へ横へと長く延びて、たった十分が一時間のようにも、丸一日のようにも感じられる。時間をもて余すことは人間が二百年の人生を生きるただ一つの方法なのかもしれなかった。『見張りの男』磯…

のぞき見る人の家はいつも散らかっている。『星になる』山下澄人

けっきょく、女たちに両方の肩の下を引っ摑まれて、やっとのことで目をあけ、母と妹をかわるがわる眺めてから、 「これが、人生か。これが、わしの晩年の平和というものかね」 と、言いだすのが、父親の一つの台詞だった。 『変身』カフカ

そうか、冬の兎はこれ程までに白くなるものなのか…弓で射抜いて毛皮を持ち帰ろうなどという気は起きなかった、じっさいには涙はこぼれなかったが、領主はここで声を上げて泣き出さねばならぬような気がした。『見張りの男』磯崎憲一郎

坂道をのぼる時に見えてくる空。くだる時に見えてくる空。体勢の違い。重力と身体の関係。歩く時は前を向く。前があって、後ろがある。右を見る。左を見る。右があって、左がある。空間と身体の関係。角を曲がると景色がひらける。光がひらける。歩いている…

僕は構造主義というのは、人間の心の中に起こることは人間の心の中だけでは解決できない、という考え方なんだろうと思った。中沢新一

その暮らし方はといえば、ここにひとりの男がいて、ある娘に思いを寄せているのだがその愛を拒まれているとして、望みを叶える手立てになりそうなことなら何でもしようとするときに、外面的にさえいかなる障害もなかったなら男は心を尽くしてその娘と一緒に…

旅先でくたくたになってお店にかえり着いたとたんに、なんのことだかいっこうに原因のわからない、厭なさっぱりしない空気を自分の全身でかんじとって、ぞっとすることがあるんですよ。『変身』カフカ

この社会の核には「悲しみ、懊悩、神経症、無力感」などを伝染させ、人間を常態として萎縮させつづけるという統治の技法がある 酒井隆史

「歯痛をもつウグイスのように」ソフトな演奏をこころがけよ サティ

精密な知と開かれた現象と日常使用される言語とが遭遇できる瞬間は平凡な瞬間ではあるまい ミシェル・セール

世界は固定的な記号の集積ではなく、索引の余韻と兆候の余韻の明滅するところではないか 中井久夫

一九七七年京都 クセナキスと最後に会ったときも マセダといっしょだった アリストテレスの同一性と差別の論理学ではない 別な論理のありかたが その時の話題だった 高橋悠治