やがて彼は渡し舟で川を渡って、それから山へと登り、生まれた村や、西の方、寒々とした真っ赤な夕映えが細い筋となって光っているあたりを眺めたとき、昔その園や祭司長の中庭で人間生活を導いた真理と美が、連綿として今日までつづいて、それらが絶えず、人間生活の総じて地上の主要なものを形づくっているらしい、ということについて考えた。すると、若さと、健康と、力との感覚が—彼はようやく二十二になったばかりだった−—そして幸福の、得体の知れない不思議な幸福の言うに言われぬ甘い期待が、次第に彼をとらえて、この人生が、魅惑的な、奇跡的な、そして高尚な意味に満ち満ちたものに思われてきた。『学生』チェーホフ