2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧
かくて過去は徐々に現在となる 常にいくつもの視線を刺激する 視覚的な経験を導く想像上の演出によって「ゴダールの決別」
不安と絶望を少しでも感じることがこの地上に存在できる最良の道だ。「ゴダールの決別」
野瀬俊夫は緑道を歩きながら、ユリノキの木の芽が芽吹いたりするのを注意深く見るようになったのはやっぱり彩子と一緒に暮らしたからだろうと思った。『残響』保坂和志
ほととぎすの声こそ、恣意のまた恣意だった。古井由吉
歌が続くかぎりは、永遠も恐れるものではない。古井由吉
映画という知覚が非中枢的であることは、すでにそれじたいが巨大なひとつの矛盾であり、小津の映画はこの矛盾の徹底した肯定によってこそ成りたつ。『小津安二郎の家』前田英樹
わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。『やし酒のみ』エイモス・チェツオーラ
漂白とは、たどりつかぬことである。 たとえ、それがどこであろうとも、 われわれに夢があるあいだは、 「たどりつく」ことなどはないだろう。 寺山修司「旅の詩集」
誰も歴史をつくらない。ちょうど草が生えるところは目に見えないように、それも目に見えない。ボリス・パステルナーク
映画を観るとは、見えるものの向こうがわから押し寄せてくる非中枢的な知覚のイマージュに対して、私たちの眼が言わば懸命に自己を保護し、ヴェールをかけ、制限を設けることではないか。『小津安二郎の家』前田英樹
ツァラトゥストラ 万人にあたえる書、何びとにもあたえぬ書
わたしも、おまえのように下りてゆかねばならぬ。わたしが下りて訪れようとする人間たちが没落と呼ぶもの、それをしなくてはならぬ。『ツァラトゥストラ』ニーチェ
ところが、ある地点に辿り着くと、不意に一挙に霧が晴れるようにしてくっきりとした風景が、変転を重ねながらも目の前に浮かび上がり、それまでの難路の労苦を癒してくれると同時に、ぐっと前進に弾みがつき、歩行が楽になる。平岡篤頼「路面電車」あとがき
次第に燃えさかる炬火の光芒は溶けて霞となり、白光となり、羊毛にも似て重々しくのしかかつていた灰色の空を晴れ上がらせ、それを無数のやわらかな青い微塵と変えた。『波』ヴァージニア・ウルフ
「感情的判断」があるのでなく、すべての判断は感情の説明のようなものでしかない。保坂和志
陽はまだ昇つてはいなかつた。海と空のけじめはさだかでなく、ただ海には布の皺のように小波が微かにたゆとうばかり。やがて空の白むにつれて、水平線は黒い一筋となって横たわり、海と空とを分け隔てた。銀布の海には一面に色濃い横波が立ち、つぎつぎと水…
作品は結局、時間の推移でしかないんだ。横尾忠則
古井 もうこの頃は、あれは何年前だって聞かれると、何でも十五、六年前になってしまうんですよ(笑)。『小説家の帰還』古井由吉
あらゆるものが、そこに在ってしまう。この世に生まれいでてから、この目で眺めてきたものすべてが、とっくに忘れ去ったと思っていたこともぜんぶ、きもちの中にはありありと在る。 それどころか、この目で見たことのないもの、決して、想像さえしたことのな…
こわかった。そしてまた、やすらかだった。『真鶴』川上弘美
もしかしたらそれは外界とわたしとのあいだに一種の夢みたいなものを介在させたらしい(それに応じてわたしの視覚能力も減衰させた)あの熱のせいかもしれなかったし、それともまた顔のやつれた老人と老人と同室だったあの部屋の明かり足りなかった(狭い内…
ジル・ドゥルーズに話を戻しましょう。彼は本当に、冗談ではなく、つまはじきされたのです。彼にたいしてわたしが送る最大の賛辞は、哲学的思考によって彼が本当に幸せになったということです。しんから心の澄んだ人になりました。言うなれば、模範的な人に…
それぞれ街である人たちを含む街のような私。『マシーン、パターン、テスト。幸せの定義』西川アサキ
書くことは幽霊に付き合うことなのだ。三浦雅士
優れた作家たちは、精神科医や脳科学者や批評家の力など借りなくても、自分が見る夢に救われます。島田雅彦
時は流れるのではなく、漉されるのです。これはまさしく過ぎるが過ぎない、ということです。『解明 M・セールの世界』M・セール
つまり、時間だけが二つの矛盾するものを共存させることができる。たとえば、わたしは若く、かつ歳をとっている。『解明 M・セールの世界』M・セール
この野原が道に向って両方からゆっくり降りて来る形で低い丘陵に囲まれていて森もあることまでがそこの道を歩いている男の都合を考えてのことだったかどうかは解らない。その方々に森が見えるだけでなくて一本立ちの大木が道に影を投げていることもあってそ…
個々人の悩みは経済の好不調などとはまったく別の場所で生まれるべくして生まれ、それぞれに克服されていたのだ。『終の住処』磯崎憲一郎
礼を、見知らぬものと思ったことは一瞬もなかったのに、日記を読んだとたんに、見知らぬものになった。顔も、思いだせなくなった。においも。肌のここちも。声も。『真鶴』川上弘美