2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

こうして彼は、例の「方法」に助けられ、想像力ひとつで、原罪のない楽園を創造したのである。岡谷公二

しかしその目的に適うよう、音楽が地球外から来る諸力によって呪術的に支配されている、と思わせるためには、めざとい目がすぐに見破ってしまうようなバネ仕掛けではだめで、音楽がひとりでに生れる必要があり、しかもその音楽は、通常の作品とは一切無関係…

しかしそうした仕草は、意識した、故意のものなので、どうしても効果の点で、目的については無知ななんらかの存在が、下心なしにひき起こす思いがけない衝撃には劣るように思われた。『ロクス・ソルス』レーモン・ルーセル

眠っている人間は自分のまわりに、時間の糸、歳月とさまざまな世界の秩序を、ぐるりとまきつけている。『失われた時を求めて』マルセル・プルースト

しかしそのときに思い出が—それは私の現在いる場所ではなくて、かつて住んだことのある場所、これまでに行ったかもしれないいくつかの場所の思い出だが—天の救いのようにやってきて、自分一人では抜け出せそうになかった虚無から私を引き出してくれる。『失…

ごきげんよう やぁやぁ 見ろ 触れろ 思い知れ 感じろ 忘れろ 嗅げ だってほら 狂っていくのが見えるだろう 「新しい文明開化」東京事変

私は自分が老いて婦人の哀れみを誘う姿になっていることを感じた。それは私にとってむしろ快かった。『在らざるにあらず』藤枝静男

しかしその瞬間、焰が燃え広がった結果、火のついた紙の切れはしが、突然空中に舞い上がったと思うや、燃えさかる火から離れて、斜めに傾きながら落ちてきたが、その動きは、水平の基部についている蝶番によって開きつつある小窓の動きそっくりだった。『ロ…

とにかく自分を水で薄めたようなところがまるきりないと私は思った。『在らざるにあらず』藤枝静男

昼の光のなかに弾じけて白くあがる濃い煙の色と、人形を次々と焰のなかに投げ入れる父の姿を、私はよく記憶している。『雛祭り』藤枝静男

市場の根底に贈与があることに気づけば、価値についての考え方は大きく変わってくるんじゃないかと思うんですね。中沢新一

だが、目がさめたばかりのときは、自分がだれだかすぐには思い出さないものだ。『モロイ』ベケット

意味で凍りついた言葉が私の上に雹のように降りかかり、世界が卑劣な、重苦しい名を与えられたまま死んでいく今となって。『モロイ』ベケット

足を運べば運ぶほど 求めていた物を思い出せず 極まれりと感じるたび 萬の想念は打ち砕かれる 「新しい文明開化」東京事変

同時に、またはなんの関係もなく次々と起こる多くの出来事がありうるし、あるはずです。この観点を認めるとき、人は反復の中にも変化の中にもいないことになります。ジョン・ケージ

キノコを知れば知るほど、それを識別する自信が薄れていくんです。一本、一本が違っていますから。ジョン・ケージ

そのことを、私がこの企図への援助を頼んでもそれに応えてくれなかった殿方たち、ひとが一束のカラス麦を犠牲に供してそれを馬の臼歯のあいだに押し込むのと同じように、私が自分自身を犠牲に供する用意をしている、そのことのために、わずかばかりの金くら…

日が高く、太陽が明るい空に輝いていた。十一人の兄弟は、突然、妖精の予告した水の球が現われるのを見ておびえた。彼らは、身を守る文句を探し求めたが、連日の底抜け騒ぎの間に忘れ果ててしまい、思い出すことができなかった。『ロクス・ソルス』レーモン…

彼は、モザイクの制作に歯のストックをあてることに決めた。歯は色も形も実にさまざまなので、この酔狂な作品にはうってつけだった。金や鉛の詰め物の輝きに加えて、歯根の鮮血のしみが、素材を一層充実させ、多様なものにしてくれるにちがいなかった。『ロ…

音楽とは、他のあらゆる芸術表現と同様、われわれを、観察する立場から行動する立場に変えてしまうものなのである。オーネット・コールマン一九七七年

バッティングの奥義は、自分自身が高まることによって少しずつわかるようになる。保坂和志

言葉の意味を取り違えてずっと使っている人がいる。同年齢や後輩なら指摘できるけど、おえらいさんとかだったら伝え難い。昨日もその人は間違って使っていた。ああ、と思ってもう3年は経つ。意味が間違っているけど、それを相手に合わせてこちらが変換して…

ネットが理由もわからぬまま不通となる。ネットをしなくなると膨大な時間が生まれた。このままでもいいかと思い、修理を先延ばしにする。一日のうちに主体的な時間はどれくらいあるのかと思う。track13

ついにはありがたいことにまったく顔を見せなくなったころ、ヘイノ・ヴァンダージュースは視野の隅の方で、粗面積みの石壁と波打つニレの木の合間にきらきらと光る翼の付いた物体が見えたような気がしたことが一度か二度あった。そして奇妙なことに、それが…

朝、起きて顔を洗っていたら、これから暑い季節にむかうのか寒い季節にむかうのか一瞬わからなくなっていた。つまり通常はいまどのような季節なのか、それがどのように移行しつつあるのかということをどこかで意識しているということだ。それによって身体の…

ナカシマは実家が寺で、だから仏教の大学に通っていたのだけれど、深く仏教を勉強するためにと葬儀屋でアルバイトをしていた。少しにおうと線香代わりにすぐ遺体にファブリーズをかける課長を見て、しばらくは「信じられない」と文句をいっていたのだが、最…

こんなとんでもない主張が広められ信じられるというのは奇妙なことだが、しかしそれよりもはるかに奇妙なのは、人びとが当の事柄については軽く考えて、それを口々に広め、また信じながら、せいぜい頭をちょっと左右に振ってみせるくらいで、事柄自体はその…

一言で言えば、彼(カフカ)は、存在する理由もなくさまざまの意味が雑然となげこまれているひとつの〔子供の〕世界が、いつまでも至高のものとして、死を前提とするのでなければ可能ではないものとして、ありつづけることを欲したのである。バタイユ「カフ…

彼はもうごく間近に自分の身の上へ全体的な崩壊現象がおこるにちがいないことを、一種の確実さで予感しながら、しかもその最後の時が迫ってくるのを待ち受けていた。 カフカ『変身』

さしあたってせっぱつまった状態にあるくせに、ひとりでに微笑がうかんでくるのをどうにもできなかった。 カフカ『変身』