陽はまだ昇つてはいなかつた。海と空のけじめはさだかでなく、ただ海には布の皺のように小波が微かにたゆとうばかり。やがて空の白むにつれて、水平線は黒い一筋となって横たわり、海と空とを分け隔てた。銀布の海には一面に色濃い横波が立ち、つぎつぎと水面を揺れ動いては、後から後からと追いすがり、追いつ追われつ不断につづいた。『波』ヴァージニア・ウルフ