あらゆるものが、そこに在ってしまう。この世に生まれいでてから、この目で眺めてきたものすべてが、とっくに忘れ去ったと思っていたこともぜんぶ、きもちの中にはありありと在る。
それどころか、この目で見たことのないもの、決して、想像さえしたことのないものさえ、そこには在る。『真鶴』川上弘美