相手が本当は誰なのか知りもせぬまま不用意に相槌を打ったりしていないか、どうして自分が来てしまったのか分からぬような場所にずるずると惰性だけで留まり続けてはいないか、いつ如何なる場面でもちゃんと一人孤独でいるかどうか、俺は俺自身を見張っている…まったく馬鹿げていると自らを嗤いながらも、口にしてみたその言葉には妙に腑に落ちるところがあった、なぜなら少なくとも一人でい続ける限りにおいては、あの、自らの人生を冒瀆している感覚に苛まれずに済んだのだから。『見張りの男』磯崎憲一郎