そして死はなぜかしら僕に、中国人のことを思い出させる。『中国行きのスロウ・ボート村上春樹



美容師との対話。
いままでたいていは美容師との対話は営業的なものか、せいぜい気候的なものにとどまるか、
あとは雑誌を読むか、眠るふりをするかにとどまっていたが、
昨日は違った。
幾度もその美容師さんはカットする手をとめ、私の話に聞き入った。
次のお客さんがいなかったこともあるが、いつもは一時間で終わるところを、
二時間近くかかって、もちろん生産性としては悪かったかもしれないが、
お互いの人生に残った。


彼は僕が雑誌に書かれている文章を丹念に読んでいることに気づき驚いていた。
「え、雑誌って読み流すもんじゃないんですか?」
「自分に必要だと思われる文章は読み流さないですよ。
この文章は今まさに自分にとって知りたいことが全部書かれてるから。切り取りたいくらいです。笑」


そこから本を読むことの話になった。
彼は活字を読むことが苦手だった。
僕は活字中毒だった。
彼が生涯で唯一読んだ本は『注文の多い料理店』だった。


お互い聞き上手話し上手で二時間の夜は経った。