なじみになじんだもの,なじみたりなかったもの,かすめすぎたもの,かすめもしなかったものをふくむ原初の体系を出てしまうと,そのあとの,できかけては解けた不完全なまにあわせの体系では,わずかであればなおつねにおなじものばかりを見ていたはずであるのに色も形もあっけなくかき消えていく.
『累成体明寂』黒田夏子