今晩は断固として、嘘でないことはなにひとつ言うまいと思う、つまり、自分で自分のほんとうの意図がわからなくなるようなことしか言わないつもりだ。たしかにいまは晩だ、いや夜かもしれぬ、わたしの記憶するかぎりいちばん暗い夜のひとつだ、なにぶんお粗末な記憶力なので。『マロウンは死ぬ』ベケット

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金木犀の香りがどこかからして顔を思わず振り返る。
秋が早まっていることを知る。その逆ではない。