終末が近づくとき、もはや追憶の心像は残らない。残るのはただ言葉だけだ。時間というものが、かつてわたしに現われた心像と、幾世紀ものあいだわたしにつきまとってきたものたちの運命の象徴であった言葉とを、混同してしまったのも不思議ではない。わたしはこれまでホメーロスであった。まもなくわたしは、オデュッセウスのように、《誰でもない者》になるであろう。まもなくわたしはすべての者になるであろう。わたしは死ぬであろう。『不死の人』ボルヘス