パラム 風。

日常、飯をたべたり、歩いたりするとき以外、私は風景ばかりみてくらした。パンドホテルとサムソンビルの間の広い道路のとば口がお気に入りだった。サムソンビルと市庁の間を鍾路の方へおちる少路から、この広い道路へ風が吹き抜けてくると私の胸はふるえた。ほんとは、風はこの少路からやってくるのではない。市庁前の広場から、アメリカの宇宙飛行士を迎えた広場からやってくるのだ。小路からくるとすれば、風はサムソンビルの角で左に直角に曲がらなければならないのだから。しかし、私の頭のなかではこの風はいつも小路から吹いてくる。広い道路をゼリー状の風が移動するのがみえる。書きながら胸がふるえる。全く変哲もない通りにすぎないのだが。『私の朝鮮語小辞典』長璋吉