ベルリンの壁が壊れたときも、とシュテファンがいった。
「ぼくはタクシーの運転手。夜、一人のお客さんを乗せて、東に入りました、東は入ったこともなくて。お客さんもぼくも。それで迷いました。明け方になってやっと見つかりました。その通りは、入っていった壁のそばでした。一日中ずっと嬉しかったので、お金はいらないといいました」
『鳥を探しに』平出隆