あたうるかぎり素にちかいはずの途上でさえ,行ったさき帰ったさきでの役わりや仮面に気ぜわしく気づかわしく身がまえていることが多くなった伸長期の群棲動物が,ひさびさにさわった純度の高い個だった.それを手ばなさない静かな覚悟のように,いっしゅんの鳥影があざやかに路面に在った.『累成体明寂』黒田夏子