その手ざわりがふいになつかしまれたのはふた季節もすぎたころか,さがしてもさがしても見つけられなかった者にうすい夕やけが流れ,それゆえさらにのちの想起にとってその紙片にまつわる情緒は,集めれば集められた,使えば使えたときの淡さではなく,かかわりたりないですりぬけられたこだわりに深くしびれていた.
『累成体明寂』黒田夏子