先史時代の人間は、両手を同じようにつかえ、むしろ全般に左利きの傾向さえあったことが、さまざまな研究から推測されている。狩猟生活という段階に入ると、人類は左半身にある心臓の鼓動の大切さに気づき、左手の楯でこれを守ると、残る右の手で石を投げるようになった。のちにはその手が、槍や棍棒をもつようになった、ともされている。さらにのちにはその手が、箸や筆をとるようになった、というわけだろう。『左手日記例言』平出隆