「壊れた世界」とか「覆された世界」という表現は、今やありふれた常套句と化してしまったが、それでもやはりある掛け値なしの感情を言い表してはいる。諸々の出来事が合理的な秩序から乖離してしまい、ひとびとの精神が物質のように不透明になって互いに浸透し合えなくなる、そして多様化した論理は相互に不条理をきたし、<わたし>はもはや<きみ>と結びつきえない、その結果、知性がこれまでおのれの本質的機能としてきたはずのものに対応できなくなくなる—こうした事態を逐一確認してみると、たしかに、ひとつの世界の黄昏のなかに、世界の終末という古くからの強迫観念が蘇ってくる。『実存から実存者へ』E・レヴィナス 一九四七年