或る一篇の詩を聞かされるか読むかしてその詩と縁があるならばそれが世界を変へるのであるよりもその詩が世界であるといふ感じがすることがあつてそれが必ずしも間違つてゐないとも考えられる。併しその詩が世界であるならばその詩である世界といふものがやはりあり、それはその詩でもある世界であつて我々は再び我々がゐる世界の中に立つ。その詩が作られる前はその形で世界であるその詩はまだなくてその形を取つた世界が今はある。併しそれはその詩の為に世界が変つたといふことではなくて我々がその詩のことを考へているのが世界である。吉田健一