二つ目の音の強さをわずかに変え、はじまる時間をわずかにずらし、前の音との間を気づかないほど区切る。それだけのことで、二つの音は一本の線ではなく、別々の線が偶然出会ったようにしかきこえない。これを徹底させれば、ピアノの八十八のキーは独立した楽器になって、それぞれのリズムでそれぞれの音がくりかえし打たれるものをきくことになるだろう。『カフカ 夜の時間』高橋悠治