僕は泣きながらその美しさのなかに立ちつくし、そしてどこにも立っていなかった。音をたてて涙はこぼれつづけていた。映るものはなにもかもが美しかった。しかしそれはただの美しさだった。誰にも伝えることも、誰に知ってもらうこともできない、それはただの美しさだった。『ヘヴン』川上未映子