作者は、人間をめぐる問題についての考え方として、一つのマトマリをもった筋道のあるものとして、最初から自分をつきあげてくるようなものを持ち合わせていない。しかし関心は色々とある。あるいは何かのキッカケで語りたくなるようなことは、ないことはない。あるいは、ある意図で、長続きはしないと思いながらもっともらしく、述べることはなくはない。語りたい、呟きたいものの海のなかに漂っている。そういってしまっていいかどうか分からないが、登場人物たちもそうであろう。さっきもいったようだが、だからこそ彼らは手紙を書きはじめ、そして続けるのであろう。『菅野満子の手紙』小島信夫