父は、過去のことは、ほとんどはなさなかった。過去はすてたといったふうでもなく、ただ、たんに興味がなかったのだろう。右翼にステッキで目をつかれ、それが、じつはずっと尾をひいて、晩年の父は目が不自由だったのだが、そんな事件はあたまのなかになかったのではないか。 田中小実昌